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children's sphere(R15)・7
少しライトに短編設定。R15です。
いつか必ずABCのB程度が出てきますのでお気をつけ下さい。
SSL設定。ちょっとオリジナル設定入っていると思います。
これもお気をつけ下さい。

自分がどうにも原田の恋人にしては子供っぽいと常々思ってしまっている千鶴。
そんな千鶴に足りないのは、未熟な容姿ではなく色気だと山南は言う。
彼によってとある媚薬を手に入れた千鶴は……?

 火照った身体をどうすれば良いのか分からず、千鶴は淡い涙で潤んだ瞳のまま原田を見上げる。原田の方には自分の熱はないのだろうかと思えるほどあっさりと淡泊に原田は立ち上がり、千鶴のスカートの裾を直して腕を掴んで立ち上がらせた。千鶴は原田にされるがままになりながらも、身体に溜まっている熱のおかげで足元をふらつかせてしまう。

「……あ……っ」

「……おっと、大丈夫か、千鶴」

 原田の片腕が、千鶴を危なげなく受け止めてくれた。千鶴は原田の腕に取りすがるように体勢を立て直しながらも、男の瞳を求める気持ちのまま見上げた。だが千鶴の想いが分かっているはずの原田は、しかしながらすっかりいつもの様子に戻ってしまっている。

「千鶴、お前、今日は少し待てるのか?」

「……え……あ……はい」

「そうか」

 原田は頷いて片腕を上げ、腕時計で時間を確認する。

「あと一時間くらいで俺も帰れそうだからな……いつものコンビニで待ってろ。送っていってやる」

 原田は学校まで車通勤だ。時折時間が合えば千鶴を家の近くまで送ってくれる。学校内では生徒と教師である以上必要以上に一緒にいることが出来ないため、放課後の車デートも二人の仲を深める大切な時間だった。

 大事なひとときを一緒に過ごせることは嬉しい。けれどこれだけ身体は火照っているのに、放って置かれるのはつらい。どうして原田は最後までしてくれなかったのだろうか。

(やっぱり、私が原田先生よりも『子供』だから?)

 自分は身体を火照らせてつらいのに、原田は涼しい顔をしている。これも彼が、自分よりも『大人』だからだろうか。……なんだか悔しいというよりも、哀しくてたまらない。

(どうして……原田先生)

 私に夢中になってくれないの?






 コンビニの中で待っているのは何となくつまらなくて、千鶴は店内でカフェオレを買ってから、それを口にしつつ車止めのところで原田を待っている。駐車している車は一台しかなかったため、千鶴が椅子代わりに車止めを使っていても別段困ることはなかった。

(……やだな……ようやく治まってきた、かな……)

 原田の指が悪戯を仕掛けるように与えてきた熱は、このときになってようやく引いてくれたようだ。ずきずきとした疼く熱がこれ以上続いたら、どうなるのか分からなくて怖い。けれどそれも、何とか落ち着きを取り戻してくれていて、ほっとする。……それにしても、あんなふうに悪戯をしかけておきながら、途中で止めるとはいったいどういうつもりなのか。

(原田先生は……結構、強引で……)

 それに、烈しい。原田に抱かれていると、時々耐えきれなくなって千鶴が意識を手放してしまうほどのときも、しばしばある。それなのにどうしてあそこまで仕掛けておきながら、原田は引いたのだろうか。

(やっぱり……私が子供だからかな……)

 学生服姿でいることは、原田にとっては子供の証なのかもしれない。制服でなければそれほどでもないのかと思うが――しばし考え込んでみて、千鶴はため息をついた。私服でもさほど変わりがないように思える。自分の容姿はそれでなくとも成長が少し足りないように子供っぽいのだ。

「……はあ……」

 思わずため息をついてしまったとき、千鶴の頭の上で若い男たちの声がかかった。

「一人?」

「それとも待ち合わせ?」

 耳慣れない声に、千鶴は驚いて顔を上げる。自分よりも少し年上と思われる――大学生くらいの若者が二人、千鶴を取り囲むように傍にいた。この二人が近づいて来ていたことなど、まったく気付いていなかったのだ。

 見知らぬ者に突然馴れ馴れしく声を掛けられて、千鶴は一瞬反応に困ってしまう。

「……え、あ、あの……?」

 若者の一人の手が、千鶴に伸びようとする。千鶴が戸惑っているのを幸い、強引に連れていこうとする仕草だ。断り方など分からず、千鶴は小さく震えるようにしながら一歩を退いた。

(どうしよう……っ)

「おいおいおい、陳腐なナンパなんかしてんじゃねぇよ、ガキども。学生服相手に手ぇ出したら猥褻罪だぞー」

 何処かからかうような響きを含みながらも、その奥に在る怒りは、隠せていない。言葉を向けられた側ではないのに、千鶴の方ですらぶるりと身を震わせてしまったのだから、言われた側は相当の恐怖を覚えたのではないか。

 安堵の笑みを浮かべた千鶴と若者の間に、原田の長身の姿が割り込んだ。原田の広いシャツの背中が、千鶴の目の前いっぱいに広がる。先ほどまで会話していた若者の姿も、それに隠されて見えなくなった。

 千鶴は思わず原田の背中にぴたりと身を寄せたくなりながらも、おとなしくその背中の奥で護られている。原田の奇妙な威圧感に息を飲んで、二人の若者はさっさとその場を立ち去っていった。……まったくもって引き際は良い。

 原田がため息をついた。

「ったく、男気のねぇヤツだな」

 一人ごちて、原田は千鶴を振り返る。先ほどの厳しい表情はなりを潜め、千鶴を心から心配するものになっていた。……千鶴がよく知っている原田の表情に、何故か別の意味でほっとする。

「千鶴、大丈夫だったか? なんか変なことされてねぇか。遅くなっちまって悪かったな」

 千鶴は原田を安心させるように満面の笑みを浮かべる。

「はい! 原田先生が護って下さったので、全然大丈夫です」

「そっか。それなら良かった。……悪かったな」

 千鶴は小さく首を振って、原田の方に歩み寄る。原田が千鶴の肩を抱いて柔らかい仕草で車の方へと誘導した。千鶴は逆らうことなく原田が開けてくれたドアから、いつもの自分の指定席に乗り込む。原田の隣――助手席の位置だ。

 原田は前を回り込んで運転席に身体を落ち着かせる。千鶴がシートベルトを締めるのを確認すると、原田はエンジンをかけ始めた。

「ちゃんとシートベルト、締めたか?」

「……私、そこまで子供じゃないですよ」

 自分の仕草が終わるのを待ってから車を発進させようとする原田の気遣いは嬉しいが、少し心配しすぎるようにも思えてしまう。それに、それ以上に自分を子供扱いしているのかとも、穿って見てしまうのだ。

「そうだな、子供じゃねぇな。最近の子供は、成長が早ぇからなぁ」

 原田が妙にしみじみと呟く。千鶴は原田の言いたいことがよく分からず、そっと彼の横顔を見返した。

 キーを回してエンジンを掛けた原田は、コンビニの駐車場から滑るように車を走らせる。前から駐車場に入れたため、バックで公道に出る。バックガラスを見るために、原田の片腕が千鶴のシートを抱きしめるように回り、後部席の方にわずかに身を乗り出した。

 シャツのしわとその下で動く筋肉の動きが感じられて、千鶴の鼓動がどきりと震えた。……仕草のいちいちにときめいてしまうのは、どうしてだろう。確かに恋人としての期間はまだ一年にも満たないが、それでもときめきすぎのような気がしてならない。

(原田先生が、こんなとき、すごく大人っぽくて男っぽいから、だと思う……)

 他の対向車や進行車とトラブルもなく、原田の車は公道の流れに乗った。原田は進行方向に身体を戻し、視線を定めた。

「千鶴も含めてだな。最近の子供は背伸びしすぎだ。もっと子供らしい時間ってのが、子供には必要だろ」

 子供子供、と連発して口にされているために、千鶴の心はさらに沈みがちになる。原田もそのことを分かっているだろうに、言葉を途切れさせることはない。きっと千鶴に対して胸に痛いことでも、伝えたいものが原田にはあるのだろう。

 だから千鶴は、反論したい気持ちを飲み込んで原田の言葉に耳を傾ける。教壇で教え諭す彼の低い声は、このときは自分一人だけのものだ。低い響きの良い声に、千鶴は耳を傾ける。このときだけしか原田を独占出来ないことが、少し寂しい気持ちもあった。

「子供のときにはよ。子供にしか分からねぇ特権ってのがあるんだ。それは大人になってからじゃ絶対に経験出来ねぇことだ。千鶴が大人になりてぇって気持ちはよく分かるぜ。……俺が、多分お前をそうさせちまってる」

 原田の声が低く千鶴に詫びるように言ってきた。その声が何処か苦しげなものを含んでいるように思えたから、千鶴は慌てて首を振る。

「そんなことはないです。原田先生がそのことを気に病む必要はないです。だって私は原田先生が好きで、原田先生の恋人になりたいって思ったんです。原田先生と恋人同士になったら、絶対に自分が子供っぽいことを悩んだりするって分かってたんです」

(そうだ、分かってたんだ)

 原田の隣に立つということは、そういうことだ。

 教師である立場を心配に思うことよりも、生徒であることにイライラしても、自分たちの関係を周囲には話せないことも、すべて分かっていたはずのことだ。それでも原田の傍にいたくて、原田の『特別』になりたいから、告白したはずなのに。

「……私……覚悟が足りなかったんでしょうか」

「んー……?」

 原田が運転の手を休めずに、言った。

「というよりよ、千鶴が覚悟することなんて何もねぇんじゃねぇのか。お前が俺のことを好きだって言ってくれたとき、お前の全部受け止めてやりてぇって思ったから俺もイエスを言った。じゃなきゃ生徒と恋愛なんて出来ねぇだろ。……ま、好きになったのは俺の方が先だけどな」

「……先生……」

「なあ、千鶴。焦る必要はねぇ」

 原田が、千鶴の方を見ずに続けた。

 原田の言葉は温かく、千鶴を大切にしてくれている想いが伝わってくる。けれど、自分はどうなのだろうか。原田の教師としての『覚悟』に比べれば、自分が生徒としての『覚悟』をまったくしていないということにならないのか。子供じみたところを原田に見せるのが嫌だと思っていたが、その部分からして『子供』を免罪符にしているのではないだろうか。

 子供と見られたくはないから、あんなふうに山南に協力を仰いでしまったのに――結局それは目先だけのことだったということか。

(見通しが甘い)

 そう言ってきたのは、土方だったか。いや、勿論土方にこの件で怒られたわけではない。千鶴が土方に怒られることは滅多にないのだ。……ただ、土方が他の生徒を叱っている場面に遭遇したことはある。

 そのときに、土方が彼らに叱責していた言葉を千鶴は思い出した。まさに今このとき、自分が言われるべき言葉ではないのか。

(見通しが、甘い……目先のことだけで判断するから、取り返しがつくのかそうでないのかが、きちんと判断出来ていない)

 自分の行動は目先の欲望を満たすだけに終わるもので、根本的解決には向かっていないのだ。それなのに、そのおざなりな欲望を満たすだけで終えようとしたことが、恥ずかしい。

 原田は自分の欲望を、あんなふうに抑えることが出来ていたのに。



「……やっぱり私、子供なんですね……」


HP初出 2010.08.04
 
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